官民で広がるオープンデータ、その活用事例とは
2021年4月1日 | データベース
現在、世の中の多くの物事がデータを中心に回り始めています。DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進しかり、キャッシュレス決済に係る企業や行政の動きしかり⋯。
データ活用によって新たなビジネスを生み出すには、分析目的に合致する質の高いデータを、活用しやすい状態(フォーマット等)で大量に確保することが最も近道といえます。そのため、まずは自社データをどう収集・管理して活用するかが大きな課題となりますが、同時に多くの場合「自社だけでは十分なデータが集まらない」「一社のデータだけでは限界がある」といった問題に直面します。
データ活用は、一般的に自社データとさまざまな外部データを組み合わせておこなうのが効果的といわれています。今回はこの外部データのうち、オープンデータの価値と活用事例を探ってみます。
「信頼性が高く、自由に使えて、無償」三拍子揃ったオープンデータ
オープンデータとは、国や地方公共団体、事業者が保有する官民データのうち、(1)営利目的、非営利目的を問わず二次利用可能なルールが適用されたもの(2)機械判読に適したもの(3)無償で利用できるもの、のいずれの項目にも該当する形で公開されたデータを指します(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部作成「オープンデータ基本指針」より)。
要するに、誰もがどんな目的でも、一定の条件下で自由に使うことができ、加工や編集、再配布が可能なデータ、ということになります。
日本では、東日本大震災がオープンデータの機運が高まるきっかけになったといわれ、2012年から政府の旗振りでさまざまな取り組みが本格化しています。2016年には「官民データ活用推進基本法」が施行し、オープンデータの推進が国や地方公共団体に対し義務付けられました。そして、2020年までを集中取組期間と定めた取り組みが続いています。
オープンデータは、総務省をはじめ、さまざまな地方自治体や公益法人等が運営するデータカタログサイトで公開、提供されています。
■ DATA GO.JP
総務省行政管理局が運用するオープンデータに係る情報ポータルサイト
https://www.data.go.jp/
また、Googleは、キーワードから世界中で公開されているオープンデータのデータカタログを検索できるサービス『Dataset Search』を、2018年9月からスタート。ウェブ上の膨大な情報の中から必要なデータセットを見つけ出すことができるサービスにより、科学者やデータジャーナリストらのサポートに乗り出しました。
■ Google Dataset Search
https://toolbox.google.com/datasetsearch
オープンデータ利活用の実態と事例
■ 政府CIOポータル オープンデータ100(計 80件 ※2020年10月8日現在)
様々な事業者や地方公共団体等によるオープンデータの利活用事例、
アクティビティ(全国各地の特筆すべき継続的なイベント・プロジェクト等)を公開
https://cio.go.jp/opendata100
政府が公開している「オープンデータ100」の事例をみていくと、地方自治体や企業、団体(NPO法人等)、教育機関(大学院等)などさまざまな事業主体が、オープンデータを活用したWeb・スマートフォン・ブラウザアプリや自社開発ソフト、API、といった形で提供しています。
テーマとしては、やはりオープンデータ機運高まりのきっかけになったといわれる防災・減災関連が最も多く提供されています。
全国の避難所情報等を活用したスマホアプリは、震災直後から提供の取り組みが始まった草分け的な存在で、「災害時に通れる道」の可視化などに役立っています。 また、住宅を建てる前に地震のリスクが分かる大手ハウスメーカーのアプリや、スマホで緊急地震速報を通知するアプリ、現在位置の地盤災害リスクを調べてスコアで表示するアプリなど。多面的な切り口での地震対策アプリが開発されています。 さらに、予測される自然災害のリスクを事前に通知し、平常時、異常気象時、大規模災害発生時の各フェーズで情報収集業務をサポートする、企業の防災担当者向けWebアプリケーションもあります。
その他で目立つのは、「観光」「交通」「医療・介護・健康」「防犯」「不動産」といったテーマ。使用されているオープンデータは、公共施設や観光スポット、AED・消火栓等の設置場所、バリアフリー、地理・気象関連の情報、ある地域にどんな人が住んでいるかを示す統計情報、交通事故件数など。これまでのところ「場所」に関するデータの活用ケースが大多数を占めています。
昨今の社会問題を反映したものも多くみられ、保育園・幼稚園、医療機関など子育て支援関連では、ポータルサイトや各種のWeb・スマホアプリが提供されています。
また、感染症を可視化するWebアプリや、「気温」「湿度」から 1時間ごとの熱中症の危険度が分かるアプリ、学校給食のアレルギー品目や献立情報の通知をメッセンジャーアプリで受け取れるサービスなど、目の付け所が「なるほど」と納得させられるものもあります。
自然災害予測や医療・健康、生活・社会問題解決型のオープンデータ活用は需要も多く、今後もさまざまな取り組みが全国や地方で繰り広げられていくと思われます。
自社データ等との組み合わせで、新たな価値を生み出す
「オープンデータ100」の中には、公的機関のオープンデータをそのまま組み込むだけでなく、何らかの分析をかけて結果をアプリやサービスに反映したり、他のデータと組み合わせて活用するケースが増えています。
ある自動車メーカーは、自治体の交通事故情報と自社カーナビデータ(急ブレーキ発生箇所等)を地図上に提示するサービスを提供。利用者はPC、スマホから危険箇所について自由にコメントを投稿することができ、そうした利用者の声によって情報がさらに充実していく仕組みになっています。
また、あるインターネット関連サービス事業会社では、全国市区町村における人口、犯罪率、交通事故発生率等の統計データと、自社サービスのユーザーレビューやグルメ・観光サイトから得られる実際に暮らしているユーザーの声をWebアプリに集約し、住環境情報として提供しています。
花粉症に悩む利用者向けの通知アプリは、公開されている花粉飛散量と飛散地点周辺や観光スポットでTwitterへ投稿された情報から独自の体感ポイントを算出し、可愛らしいキャラクターで使う楽しさを演出しています。
さらに千葉市では、市民が投稿する公共インフラの課題(道路が痛んでいる、公園の遊具が壊れているなど)をオープンデータとして活用しています。市民のレポートはクラウド型CRM(顧客管理)システムで一元管理されてWeb上のマップに表示され、行政はそれを見ながら担当課に振り分けて対応する仕組みです。市民の情報が直接行政内の業務フロー改善や効率化に活かされるという、協働による取り組み成功例となっています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の機運に乗り、データ活用によって新しいビジネスを創り出そうという企業の意欲はますます高まっていくものと思われます。
自社データとオープンデータを組み合わせ、さらにAIなどを使った予測モデルがすでに誕生し始めており、今後も次々と増え続けていくことが見込まれています。